将来への不安を
かき消してくれた、
師匠の味。
まずは調理の腕を認めてもらう。
それが、歳上の方に指導する第一歩。
主な業務は、病院食の調理と、主任として調理師への指導です。1日2,000食以上を提供する事業所なので調理師の人数も多く、自分より歳上の方もたくさんいます。転職で当社に入社される方は、調理の腕がよく信頼できるのですが、前職での習慣が抜けないことも多く、教えるには工夫も必要です。そこで、まずは自分もきちんと調理ができるところを見せる。「若くてもやるな」と認めてもらうことで、より話を聞いてもらいやすくする。これが、僕が思う歳上の方への最善の指導スタイルです。
僕が新人の頃、50歳前後の気難しい方が入社されました。最初の数ヶ月くらいはほぼ口も聞いてくれませんでした。でも、調理の腕は一級品。僕はその方のサポートに入ることが多く、隣でビクビクしながらも必死に仕事をしました。するとだんだんと打ち解け、ついにはよく話す仲にまでなったのです。昨年ご家庭の事情で退職されたのですが、別れ際に「沖(倉)君とやるときが一番やりやすかった」と言われて、すごくうれしかったです。先日「無理するなよ」と連絡があったのですが「あなたのサポートをしていた時期が一番無理をしていた」とはさすがに言えません(笑)。
ON STYLE わたしの相棒
- ブリクサー(ロボクープ)
- きざみやペーストなど食材を、さまざまな状態にできる機械です。病院食を調理する人だったら、これがないと仕事にならない、誰にとっても相棒だと思います。



※演出上、衛生マスクや手袋をしておりませんことご了承ください
ほかのどんな料理
よりも、
師匠の料理が
おいしかった。
入社して何年かは、正直悩んでばかりでした。何か特色のある料理をつくるわけでもなく、自分には調理師としての武器が何もないと思い込んでいたんです。それに比べて、SNSを見れば、専門学校時代の友人の活躍がたくさんアップされている……。「僕はこの先もやっていけるのか」そんな不安やグチをいつも聞いてくれ、そのたびに助言をくれたのが、当時の調理長であり、僕の師匠にあたる人でした。
師匠には普段から「外でいろいろなものを食べるように」と口酸っぱく言われており、時間(とお金)があれば、外食していました。あるとき、師匠がつくった高級なイベント食が少し余ったため、食べさせていただく機会があったんです。それを口にして、僕は「これからもこの人のもとで働こう」と決心がつきました。有名ホテルのコースなどを含めて、これまでに食べたどんな料理よりも、師匠の料理がおいしかったからです。師匠には社会人としての振る舞いなど、人間的な面もたくさん学びました。いまは僕が指導する立場。なので、後輩にとっての僕が、僕にとっての師匠であるように、この先もがんばっていきたいと思っています。

