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ヒト 2024.07.25

世界の大舞台で活躍! 木原龍一選手×aim管理栄養士、スポーツ栄養サポートの裏側

フィギュアスケートペアで世界を舞台に活躍する、木原龍一選手。三浦璃来選手と組む「りくりゅう」ペアは、世界チャンピオンにも輝いた、日本フィギュアスケート界を牽引するペアです。そんな木原選手から栄養サポートをお願いしたいと連絡があったのは昨年の10月のこと。エームサービスのサポートで、世界チャンピオンのコンディションはどう変わったのか。木原選手と管理栄養士・公認スポーツ栄養士の西山さん、岡本さんの3人がその舞台裏を語り合いました。

エームサービスがスポーツ栄養サポートを実施する
木原龍一選手との対談が実現!

西山英子さん(右) 1991年、エームサービスに入社。建設会社の社員食堂に配属。3年間勤務後、本社に異動となり、ビジネスダイニング分野におけるヘルシーメニューの企画や特定保健指導などの健康サポート、栄養士の教育を経験。社会人女子陸上競技部、社会人男子バレーボール部、プロ野球球団、社会人男子ラグビー部などのスポーツ栄養サポート業務や宇宙飛行士の健康管理業務などに携わる。
岡本 香さん(左) 2010年、エームサービスに入社、事業所給食業務を担当。2014年社内公募で早稲田大学スポーツ栄養研究所との共同研究員として研究に従事することを機に本社へ異動。アスリートへの栄養サポートや宇宙飛行士の健康管理業務、レシピ開発、社内栄養士教育などに携わる。

お話を伺ったのは…
木原龍一選手
1992年、愛知県生まれ。2013年、シングルスからペアに転向し、ソチ、平昌、北京オリンピックに出場。2019年に三浦璃来選手と「りくりゅうペア」を結成すると、わずか4年で世界チャンピオンに登り詰め、2022-23シーズンは主要国際大会を全て制し、日本選手初の年間グランドスラムを成し遂げた。昨シーズンは腰のケガに苦しんだものの、世界選手権、四大陸選手権で銀メダルを獲得。完全復活を遂げた今シーズンに大きな期待がかかる。

木原選手をサポートすることになったきっかけを教えてください。

木原選手:昨年の10月に「腰椎分離症」と診断され、予定していた大会を欠場してリハビリを始めることが決まりました。少しでも早く競技に復帰するためにとにかく出来ることはなんでもやろうと、リハビリやトレーニングだけではなく食事面からも何かできることはないかと考えていたところ、マネージャーさんから「佐藤駿選手がエームサービスさんの栄養指導を受けている」という話を聞いて、相談をさせていただきました。

西山さん:テレビでいつも拝見していた選手、しかも、世界チャンピオンからご連絡をいただいたときは、本当にびっくりしました。「3月の世界選手権の復帰を目指して腰のケガを早く直したい」というお話だったので、管理栄養士としてはかなりプレッシャーを感じました。

西山さん:木原選手のケガは、この食事を摂れば治るというものではありません。でも体は食事からできているので、毎日の食事が大切です。まずはどんな食事を普段摂っているのかを把握するために、食事の写真を送ってもらったり、どんなものを食べたのか細かく記録してもらったりしましたよね。ちょっとめんどくさかったと思うんです。でも、木原選手はすごく勉強熱心で、自己管理能力が高い選手だったので、栄養士としてはとてもやりやすかったです。料理もすごくお上手ですけど、元々好きだったんですか?

木原選手:2019年からカナダに拠点を置いているのですが、日本にいた頃は全く料理をしていませんでした。でも、海外にいると日本食を食べたいと思ったら自分で作るしかない。鶏肉を蒸したりする程度だった最初の頃に比べたら、大分上達しました。最近は圧力鍋を買ったので、新しい料理にも挑戦しています。

西山さん:サポートに入ってすぐに、それまでどんな食事をしていたのかを教えてもらいましたけど、しっかりと考えられたメニューでした。勉強もされていたんですね。

木原選手:そうですね。本を読んだり、YouTubeを見たりして、参考にしていました。ただ、そのYouTubeがボディービルダーのチャンネルだったので、ストイック過ぎて食事が全く楽しくない(笑)。西山さんと岡本さんに指導してもらうようになってから料理のレパートリーも増えましたし、食事が楽しくなりました。

西山さん:ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです。

今回オンラインでの栄養サポートということで、工夫した点はありますか?

岡本さん:いつもオンラインだったので、私は直接お会いするのは今日が初めてなんです。よろしくお願いします(笑)。カナダではどんな食材が手に入るのかが分からないので、スーパーの野菜売り場とか冷凍食品売り場の写真をLINEで送ってもらって、そこからレシピを考えてオンラインミーティングでこの食材を使ってくださいというお話をさせていただいています。あとは食事の写真を送ってもらって、お伝えしたことがちゃんとできているか、足りない栄養素はないかなどを確認して、次のアドバイスに役立てています。最近カナダのスーパーでも普通に豆腐を買えるようになったと前回お聞きしたので、今日豆腐料理のレシピをお持ちしました。ぜひ参考にしてください。

木原選手が練習拠点にしているトロントのスーパーマーケット

木原選手:ありがとうございます。野菜やフルーツは日本より充実しているんですけど、和食で使えるような食材は少ないので、カナダにあるものでレシピを教えていただけるのはすごく助かります。ミーティングでは資料を使った西山さんの”授業”があるんですけど、僕としてはそれがすごく勉強になっています。

西山さん:授業なんて、そんな厳しいものじゃないんですけど、そう感じちゃいますよね(笑)。

木原選手:いえいえ(笑)。栄養学の知識を教えていただきながら、新しいメニューにどんな栄養素がどれくらい入っているのか、コンディションを維持するために必要な栄養素の摂取目安など、毎回、勉強させていただいています。大会中に食事会場の写真を送って、アドバイスをいただいたこともありましたよね。

西山さん:今年の1月に上海で開催された四大陸選手権のときですよね。

木原選手:野菜を食べたかったんですけど、食事会場にある野菜は炒めものばかりで……。これを食べたら胃もたれするんじゃないかと思ってずっと控えていました。そこで西山さんに連絡して、「試合直前じゃなければ食べても大丈夫」とアドバイスをいただいたことで安心して食事を摂ることができました。フィギュアスケートは海外を転戦するので食事には結構頭を悩ませます。食べないとダメとは分かっていても大会期間中はどうしても食べる量が減るので、体重が落ちてしまう。そういうときに的確なアドバイスをいただけるのは、本当にありがたいです。

実際に栄養サポートを受けてから変化はありましたか?

木原選手:以前は自己判断で炭水化物の量を減らしていました。ご指導いただくようになってから、しっかりと炭水化物も摂るように食生活が変わりました。

西山さん:アスリートの場合、直接エネルギー源となる炭水化物を摂ることが大切です。それが最初に食事分析をした時に木原選手は結構不足していたんです。そこで、運動の強度に合わせた量を摂るようにご提案させていただきました。

木原選手:ペアは瞬発力や筋力、持久力も必要な競技です。例えるなら100mを全力でダッシュして、すぐにベンチプレスをして、また100mをダッシュするような感じ。これ伝わりますかね(笑)。演技を終えると疲労困ぱいなんですけど、食事を変えてから確かにエネルギー切れがなくなった感覚があります。やっぱり以前は炭水化物が足りていなかったんだと実感しました。

実際の木原選手の食事

サポート前の朝食
サポート後の朝食

実は今回、三浦璃来選手にもお越しいただいています!
お2人はとても仲良しペアとしても有名ですが、
三浦選手から見て木原選手、何か変化はありましたか?

三浦選手:龍一くんは本当にストイックなので、栄養サポートを受ける前は、鶏胸肉が体に良いからといって、毎日鶏胸肉ばっかり食べていたんです。それが最近は豚肉、牛肉、鶏肉、魚ってローテーションするようになって。私もちょっと分けてもらうので、食事が楽しくなりました(笑)。

木原選手:強制したわけじゃないんですけど、璃来ちゃんも意識が高いので、しなくてもいいのに僕を真似して同じようなメニューを食べるんです。2人で「これ辛いよね……」って言いながら食事をしていました(笑)。でも今はしっかりとおいしくてバランスも取れているメニューなので、むしろ真似してほしいです。この間、教えていただいたサーモンのホイル焼きを練習のお弁当のときに持っていったら、すごく気に入ってたくさん食べてくれました。

岡本さん:同じフィギュアスケートでもシングルとペアでは違う部分がいろいろあると思いますが、体調管理の上でお二人が意識していることがあったら教えてください。

木原選手:ペアは常に2人で滑るので、どちらかがベストじゃない状態で練習するとケガにつながってしまいます。そのため、体調を崩さず常にいい状態で練習するということを意識しています。ペアの相手に迷惑をかけないためにも、シングル時代と比べるとコンディションを万全にしておくという責任感は強くなったかもしれません。

三浦選手:私はリフトで持ち上げられる側なので、体重のコントロールにはすごく気をつかっています。体重が増えてもいけないですし、減りすぎるとバランスが崩れて龍一くんに負担を掛けてしまうことになるので。

西山さん:今シーズンも引き続きサポートさせていただきますので、三浦選手もお時間があるときはぜひ!

三浦選手:実は今大学4年生で栄養学を履修しているんです。

西山さん:え、そうなんですね。それならなおさら私の授業を聞きにいつでもオンラインに参加してください(笑)。

今シーズンへの意気込みを教えてください。

木原選手:食事はすごくいい感じなので、お2人のご指導を受けながら、このまま続けていきたいです。競技の面では、腰のケガのために、昨シーズンはオータムクラシック、四大陸選手権と世界選手権の3試合しか出場できませんでした。今年はしっかりコンディションを整え、ケガなくシーズンインして、毎試合自分たちのベストを超えていけるようにしていきたいと思っています。

三浦選手:龍一くんだけでなく、私も世界選手権で肩を悪くしてしまったので、2人ともそれを再発させないようにしっかりとコンディションを整えて、シーズンの最初から最後まで試合に出られるように頑張りたいと思います。

ありがとうございました!
最後に木原選手からエームサービスで働く
みなさんへのメッセージをお願いします。

木原選手:いつもご指導をいただきありがとうございます。西山さんと岡本さんのお2人の栄養士さんにアドバイスをいただくようになって食に対する意識は大きく変わりました。何よりも変わったのは、シーズン中でも毎日の食事を楽しんでいいと思えるようになったことです。応援をしていただいているエームサービスの皆さまに、これからもいい報告ができるように楽しく食事をしながら、健康管理に気をつけて競技活動を頑張っていきたいと思います。

〜対談を終えて~
本日の感想と今後に向けての思いを教えてください。

西山さん:実際に食事を変えてから調子が上がってきたという“栄養士冥利”に尽きる言葉をいただいてとても嬉しかったです。栄養に関して木原選手の知識も付いてきたと思うので、今シーズンは私の授業もより詳しくしていきたいです(笑)。世界チャンピオンをサポートできることを名誉に感じながら、今シーズンを通してベストコンディションを維持できるように、しっかりとサポートしていきます。

岡本さん:「食事が楽しかったことを思い出した」と言っていただけたことが栄養士としてすごく嬉しかったです。厳しい世界で戦うためには、我慢や諦めなければならないこともたくさんあると思います。でも、食事は楽しみながら体にうまく取り入れてもらいたいです。木原選手はこちらからのアドバイスをすぐに実行してくれるので、すごくやり甲斐を感じています。今シーズンも木原選手がよいパフォーマンスを発揮できるように、西山さんと一緒に頑張っていきます。

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