gofun(ごふぁん)

ヒト 2025.05.29

三浦選手の栄養サポートもSTART! “りくりゅうペア”×エームサービス管理栄養士の最強タッグ スポーツ栄養学LESSON

フィギュアスケートペアで世界を舞台に活躍する、木原龍一選手と三浦璃来選手の「りくりゅう」ペア。2024-25シーズンは、世界選手権で2年ぶりの優勝、そしてシーズン最終戦となる国別対抗では自己ベストを更新するなど、充実したシーズンを送りました。そして来シーズンには、冬季オリンピックが控えています。これまで2シーズンにわたり木原選手の栄養サポートを担当してきた管理栄養士・公認スポーツ栄養士の西山さん、岡本さんと世界チャンピオンに輝いた「りくりゅうペア」の最強タッグが今シーズンを振り返りました。

目次

プロフィール

木原龍一選手 1992年生まれ、愛知県出身。2013年、シングルからペアに転向し、ソチ、平昌、北京オリンピックに出場。
三浦璃来選手 2001年生まれ、兵庫県出身。2015-16シーズンにシングルからペアへ転向。

2019年に「りくりゅうペア」を結成すると、わずか4年で世界チャンピオンに登り詰め、2022-23シーズンは主要国際大会を全て制し、日本選手初の年間グランドスラムを成し遂げた。2023-24シーズンは腰のケガに苦しんだものの、2024-25シーズンは世界選手権で優勝。2度目の世界チャンピオンに輝いた。スピードと高さ、ぴったりと息の合った表現、観る人を幸せにする笑顔を武器に、日本フィギュアスケート史上最高のペアとして2026年ミラノ・コルティナオリンピックで表彰台を目指す。

左:管理栄養士/公認スポーツ栄養士 西山英子さん
エームサービスに入社後、建設会社の社員食堂に配属。3年間勤務後、本社に異動となり、ビジネスダイニング分野におけるヘルシーメニューの企画や特定保健指導などの健康サポート、栄養士の教育を経験。社会人女子陸上競技部、社会人男子バレーボール部、プロ野球球団、社会人男子ラグビー部などのスポーツ栄養サポート業務や宇宙飛行士の健康管理業務などに携わる。

右:管理栄養士/公認スポーツ栄養士 岡本 香さん
エームサービスに入社後、事業所給食業務を担当。2014年社内公募で早稲田大学スポーツ栄養研究所との共同研究員として研究に従事することを機に本社へ異動。アスリートへの栄養サポートや宇宙飛行士の健康管理業務、レシピ開発、社内栄養士教育などに携わる。

世界選手権優勝。充実のシーズンを終えた感想を教えてください

エームサービスが栄養サポートを担当するようになって2シーズン目となる今シーズン、2年ぶりとなる世界選手権優勝、世界チャンピオンに輝きました。

木原選手:シーズン中は常に二人で意識を高く保つことができ、その積み重ねが成績にも表れたと思っています。食事面では、以前は試合初日のショートが終わると、翌日のフリーのときに疲れが残っているのを感じていたのですが、西山さんと岡本さんから「炭水化物の量が足りていないかもしれない」というアドバイスを受けて、必要な量をしっかり摂るようにしてからフリーの日もエネルギーが残っている感覚がありました。疲労がたまってくるとつい食事をおろそかにしてしまうこともありましたが、そのタイミングで食事への意識が足りていないところを指摘いただけたのも大きかったと思います。自分の気が緩むと璃来ちゃんも一緒に緩んでしまうので。お二人のサポートのお陰で、最高のシーズンを過ごすことができ、とても感謝しています。

西山さん:そういっていただけるとうれしいです。木原選手は元々食事に対する意識が高くて、1年目こそ栄養の基本的なことも少しずつお伝えしながらサポートをさせていただきましたが、2年目の今シーズンはこちらがアドバイスをしたことを、全て受け止めてすぐに実践してくれるので、さすがだなと思っていました。

岡本さん:伝えたことをご自身で噛み砕いて、日々の生活のなかでしっかり実行できることがすごいですよね。昨年11月のNHK杯のときにいろいろとヒアリングをして、アドバイスをさせていただきましたが、すぐに次の試合で試してどうだったか、結果をきちんと教えてくれるので、こちらとしてもまた別のアドバイスができる。意識がとても高くて、さすがトップアスリートだと感じました。

木原選手:あのときはプロテインの選び方を教えてもらったんですよね。これまでは我流で選んでいたのですが、試合の度にお腹が張っているような感覚があったので相談したところ、回復をメインに考えて選んでいたものが、実はトレーニング後に飲むものを選んでいるとご指摘いただいて。回復に適したプロテインを飲むようになってからは、調子がよくなりました。

三浦選手:毎月1回、龍一君がオンラインでお二人と打合せをしているのは知っていました。たまたまプロテインの話をしているときに横で聞いていて、私も自分流に取り入れていました。

西山さん:そうだったんですね(笑)。

木原選手:一緒に意識を高く保つことでシーズンを通してベストコンディションに近いレベルを維持できました。本当にこれに尽きますね。

エームサービスの栄養サポートを受けるようになってからの食事への意識の変化

木原選手:以前は「今日食べたら明日、強くなれる」「すぐに結果が出るもの」と考えていたのですが、お二人から食事は速効性のあるものではなく、毎日コツコツと続けてようやく結果が出るというお話を伺って、そこから食に対しての意識が変わりました。

ある日の木原選手の食事。アスリートの食事の基本形がしっかりと整っている

先日メディカルチェックを受けたところ、2023年にケガをした腰椎が以前より強くなっていました。お二人からアドバイスを受けて、カルシウムの量を増やそうとアーモンドミルク、牛乳やチーズを食事に摂り入れたことが、実際に成果となって表れたんだな……と、改めて日々の積み重ねの大切さを実感しました。

西山さん・岡本さん:そのメディカルチェックの結果は私たちもすごくうれしいです。

木原選手:これからシーズンオフですが、今からちゃんとした食事を摂らないと、シーズンイン直後にケガをしてしまうのではないかという怖さも感じています。2023年がまさにそうで、オフシーズンに緩んでしまって、シーズンイン直後にコンディションがベストではない状態で、新しい技に挑戦して腰椎分離症という大きなケガをしてしまいました。その苦い思い出があるので、今年は特に気を付けたいと思います。トレーナーさんともオフシーズンに体重が増えても、2、3㎏以内に抑えようという話をしているので、これからのオフシーズンも、筋量を落とさずキープできるような食事を相談させていただきたいと思います。

西山さん:特に来シーズンは2月にミラノ・コルティナオリンピックが控えている大事な年になります。オフシーズンに緩みすぎて体重を増やしてしまうと戻すのが大変ですよね。とは言え、普段すごく気を付けているので、オフは“ちょっと楽しみを取り入れながら”くらいの気持ちでいいのかなと思います。せっかく日本に帰ってきたので、おいしいものをおいしく食べたいですよね。ぜひ、気軽に相談してください。三浦選手はいかがですか?

三浦選手:実は私も来シーズンに向けて、龍一くんと同じようにエームサービスさんに栄養サポートをお願いしたいと思っています。これまでは自分なりに気を付けてはいたのですが、大学も卒業してスケートに専念できるようになったので、食事もプロのアドバイスを受けた方がいいと、今回決断しました。龍一くんが食事を整えるようになってからコンディションが良くなって、メンタルが安定するようになったのを見て、やっぱり食事は大切だと感じるようになりました。

木原選手:璃来ちゃんも僕の食事内容を真似してくれてはいるのですが、男性と女性では必要な栄養が違うと思いますし、今は体重を増やさないように炭水化物の量を自分でコントロールしているのですが、その方法が正しいかどうかを一度専門の方に意見をいただいた方が絶対にいいと思っていたので、今回決断してくれてうれしいです。ペアでのサポートをよろしくお願いします。

管理栄養士/公認スポーツ栄養士による「スポーツ栄養学Lesson」

ここで、これからサポートを受ける三浦選手に管理栄養士のお二人からぜひ、知ってもらいたい食事に関する3つのアドバイスがあるそうです。西山さん、岡本さん「スポーツ栄養学Lesson」をお願いします。

Lesson1:食事は「おいしく、楽しく、食べる」 

西山さん

知っておいてもらいたいことが3つあります。まずは「おいしく、楽しく、食べる」です。これはサポートをさせていただくことが決まった際に木原選手にもお伝えしたと思いますが、私たちエームサービスは「おいしく、楽しく、食べる」ことをすごく大切にしています。三浦選手はどんなものがお好きですか?

三浦選手

体にはあまり良くないのかもしれませんが、実はラーメンとか、とんかつなどの揚げものが大好きなんです(笑)。

木原選手

でも、シーズン中は食べないよね。

三浦選手

カナダに行くと龍一君とほぼ同じ食事になるので、ゆで野菜と白米とか、あとはチゲなどのスープ系は自分で作ってよく食べています。

西山さん

基本的に食べてはダメというものはなく、ラーメンや揚げものも「タイミングと量」に注意しながら楽しんでほしいと思います。管理栄養士のサポートというと、「あれを食べてはダメ、これも食べてはダメ」と小うるさいことをずっと言われるイメージを持つ方が多いのですが、私たちは基本的に食事をおいしく、楽しく食べられるように、三浦選手の好みや考えを聞きながらアドバイスをさせていただきます。大切なオリンピックイヤーになりますが、我慢するだけでなく「おいしく、楽しく、食べる」を大切に、サポートしていけたらと思います。

Lesson2:主食・主菜・副菜・乳製品・果物を毎食揃えて栄養バランスを整えましょう

岡本さん

2つ目は「主食・主菜・副菜・乳製品・果物を毎食揃えて栄養バランスを整えましょう」ということです。体を酷使するアスリートの皆さんには、主食である白米、おかずの主菜、副菜に加えて、カルシウムが豊富な乳製品、ビタミンを含む果物を、毎食摂り入れるようにアドバイスをしています。

アスリートの食事の基本形

三浦選手

実は好き嫌いが多いんです。骨密度が低くてカルシウムを摂らなければいけないと思ってはいるのですが牛乳が苦手で……。

木原選手

ペア競技は、ジャンプやリフトで着地をするときの衝撃が大きいので璃来ちゃんの体が心配でした。ぜひその点もサポートをお願いします。

西山さん

乳製品はカルシウムとたんぱく質が多く含まれているので骨密度を高めるにはおすすめですが、カルシウムは豆腐にも多く含まれているので代わりのもので補っていけば大丈夫です。

三浦選手

豆腐もそのまま食べるのは、味がダメなんです……(笑)。でも鍋料理に入れると大好きです。乳製品もヨーグルトは大丈夫です。

西山さん

なるほど。まだ三浦選手の食の好みが分かっていないので、これからいろいろ教えてもらいながら、必要な栄養素を無理なく摂ることができる食事・食品を一緒に探していきましょう。

岡本さん

好き嫌いがあることを教えていただいてよかったです。これから食事の写真を送ってもらうことになりますが、私たちに気を遣って普段の食事とは違う、バランスの取れた完璧な食事の写真が届くと調子を崩したときに、なぜ体調を崩しているのか、体重が変わっているのか、その原因が分からなくなってしまいます。どんな食事でも気にせずに、ありのままの食事を教えてください。

 

三浦選手

私には監視役がいるので、その点も大丈夫です(笑)。

木原選手

(笑)。カナダには日本のようなコンビニはないので、気軽に間食を買うことができないんです。スーパーに買い物に行ったときに「今日は食べるぞ!」と決意して買うこともありますが、普段家にはお菓子が全くない状態です。

西山さん

先日テレビで放送されたお二人の密着番組でスーパーに買い物に行ったときにクッキーコーナーの前で「今日は撮影だから買わない」って三浦選手が言うシーンがありましたね。

木原選手

あのクッキーはすごくおいしいんですけど、シーズン中に本当に疲れていて、練習で集中力がなかったときだけリフレッシュで食べていいことにしています。

岡本さん

心の栄養ですね。それも大事です。他にもご褒美メニューはありますか?

木原選手

試合が終わったときにポテトチップスを一袋だけ食べます。

三浦選手

カナダにあるチェーン店のピザ屋さんがすごくおいしいんですけど、今年は1回も食べませんでした。やっぱりカロリーが高いので……。その代わりにヘルシーな韓国料理のお店によく行っていました。

西山さん

ご褒美メニューなのにそこまで気を遣っているんですね。三浦選手もすごく意識が高いので安心しました。私たち栄養士はずっと側にいることはできないので、必要な知識を身に付けてもらい、食生活の自己管理ができるようになっていただきたいと思っています。ペアのサポートは私にとっても初めての経験ですが、お伝えしたことを二人で相談して応用したり、ブラッシュアップしたりできるのはすごくいい環境だと思います。ただ、男性と女性ですし、体格も、選手としての課題も違うと思うので、しっかりと三浦選手に合わせたサポートをさせていただきます。

Lesson3:いろいろな種類の食材をバランスよく食べる

岡本さん

3つ目は「いろいろな種類の食材を食べる」ことです。例えば、たんぱく質が豊富な肉類はアスリートの食事には欠かせないものです。ただ種類によっては、脂質も多く含まれているのでつい高たんぱくで脂質の少ない鶏むね肉を選ぶことが多いと思います。ただ、鶏肉、牛肉、豚肉とそれぞれ含まれている栄養素が違うので、いろいろな種類をバランス良く摂り入れることを意識してほしいです。特に女性の場合は鉄分が不足しがちなので、鉄分が多く含まれている牛肉、特に赤身を積極的に摂り入れてみてください。

三浦選手

お肉といえば、私は龍一くんの影響で鶏むね肉を食べ過ぎて、体が受け付けなくなってきているので、その点は大丈夫だと思います(笑)。普段、牛肉を炒めたり、豚ひき肉を使って肉みそを作ったり、龍一くんよりもバリエーションがあると思います!

木原選手

僕もシーズンの前半はまだ余裕があるので、牛肉を摂り入れていましたが、海外遠征が続いてくると、慣れている鶏肉料理に逃げがちになるんですよね。

西山さん

いつも送ってくれる食事の写真で鶏肉料理が多くなってくると、木原選手の疲れがたまっているのかなとすぐに分かります(笑)。確かにいろいろな種類のお肉を食べるのは大変ですが、料理のレシピをお伝えするので、一緒に頑張りましょう。

来シーズンのオリンピックに向けて、これからの目標を教えてください

木原選手:通常のシーズンだと毎年3月に世界選手権があるので、そこに合わせてピークを持って行くのですが、オリンピックは2月開催なので、通常より1カ月、早く仕上げる必要があります。そのためにはオフシーズンから食事を含め、オリンピックに向けてしっかり取り組んでいかなければいけないと思っています。まだ代表選手の確定はしていませんが、出場できれば次が4度目のオリンピックになります。プレッシャーもありますが、それ以上にまた戻れる、挑戦できるという楽しみの方が大きいですね。ベストを出せるようにコンディションを整えて挑みたいと思います。

三浦選手:私は前回大会が初めてのオリンピックでしたが、本当に初めての経験が多くてすごく楽しかったので、次も楽しみながら競技人生のいい経験にしていけたらと思います。

西山さん:木原選手はアドバイスしたことをしっかりと生活のなかに落とし込んで実践できている。本当に優等生としか言いようがないです。これから三浦選手もサポートさせていただくことになったので、二人一緒に最高の状態でオリンピックを迎えていただきたいですし、そのために岡本さんとしっかりとサポートしていきたいと思います。そばに管理栄養士がいるという安心感を持って、カナダで調整をしていただきたいと思います。

岡本さん:いつでも相談できる管理栄養士がいることを少しでも心強く思ってもらえたらとてもうれしいです。カナダは日本と距離は離れていますが、お二人が不安に思っていることがあれば、気軽に何でも相談してください。しっかりと支えていきます。オリンピックでのご活躍を期待しています。

「ヒト」に関する記事

コラム一覧へ戻る