aimの管理栄養士によるダイヤモンドアスリートの栄養サポートに迫る!
日本陸上競技連盟が展開している、国際大会での活躍が期待できる次世代の競技者を強化育成する「ダイヤモンドアスリートプログラム」。エームサービスでは2016年から日本陸上界の宝ともいうべき原石の選手たちへ栄養サポートを行っています。
今回は、3人のダイヤモンドアスリートと、それぞれの選手を担当する3人の管理栄養士がスポーツ栄養サポートの裏側を語り合いました。
目次
食で若きアスリートのパフォーマンスを支える、
栄養士たちの思い。
お話を伺ったのは…
中央:松岡未希子さん(栁田選手担当)
2008年入社。各アスリートのスポーツ栄養サポートや管理栄養士・栄養士の教育体系の構築、事業所運営全般のサポートに従事している。管理栄養士、公認スポーツ栄養士、健康運動指導士。
左:青木萌さん(北田選手担当)
2014年入社。社員食堂での栄養士業務を経験したのち、社内公募をきっかけにスポーツ栄養サポート、ヘルシーメニュー企画、社内外のイベント運営などに従事している。管理栄養士。
右:青沼小百合さん(澤田選手担当)
2010年入社。社員食堂での栄養士業務を経験したのち、社内公募をきっかけにスポーツ栄養サポート、健康に関するWeb記事の配信、事業所運営全般のサポートに従事している。管理栄養士。
―ダイヤモンドアスリートへはどういったサポートを行っているのでしょう?
松岡さん:2016年からダイヤモンドアスリートのサポートをさせていただいています。チームサポートではないので、選手一人一人に担当の管理栄養士がつき、日々の食事や栄養のサポートを行っています。また、年に1度、ダイヤモンドアスリート向けにさまざまな研修プログラムが開催されるのですが、エームサービスは栄養実践研修を担当しています。講義を通じて栄養について学んでもらうだけでなく、エームサービスの調理師と一緒に料理を体験してもらい、食の大切さを学んでもらうプログラムを実施しています。
―普段はどのような栄養サポートをしているのでしょうか。
松岡さん:選手にはそれぞれ「筋肉をつけたい」「試合中に疲れが出ないようにしたい」といった目標があります。日頃の食事がその目的に合ったものになっているのか、定期的に食事の写真を送ってもらって確認し、アドバイスをしています。普段はSNSで連絡を取っていますが、オンライン通話や対面で相談を受けたりすることもあります。
ダイヤモンドアスリートは学生なので、皆さん生活環境もバラバラです。寮に住んでいる人もいれば、実家で生活している人もいます。それぞれの環境で実現可能な行動目標を立てて、実行できているかをモニタリングしながら、クリアしたらまた次の目標に向かう。これを繰り返していくことになります。
―選手をサポートする上で心がけていることを教えてください。
青沼さん:高校生や大学生と若い選手なので、私が発する言葉一つ一つが大きな影響を与えてしまうこともあると思うんです。私自身、話すのは得意ではないのですが、コミュニケーションを取るときの言葉選びは慎重にしています。
青木さん:選手の性格やタイプに合わせるようにしています。短文でラフに返せるようなメッセージを送ったり、しっかりとしたコミュニケーションを重視している選手には定期的に情報を送ったりと、相手に合わせたアプローチの方法を考えています。
松岡さん:「毎日どんな食事をとっているのか」というのは、生活に直結している分、とてもプライベートな情報です。選手によっては「お菓子を食べたことが恥ずかしくて言えない」ということだってあります。一方で、事実を聞かせてもらえないと、きちんと栄養がとれているのかを判断することはできません。知識を押し付けるのではなく、相手が今どういう状況で、どうなりたいのかを丁寧にヒアリングして、その上で選手に寄り添い、気軽に相談したり話ができるような信頼関係を築くことを大切にしています。
―ダイヤモンドアスリートのサポートでやりがいを感じるのはどんなときですか。
青木さん:私は棒高跳の北田選手を担当しているのですが、棒高跳の試合を生で見たのは北田選手に関わるようになってから。競技についての知識や練習のメニューについて学びながらサポートをしています。これまで自分が知らなかった競技でも、こうして関わっていると、その競技のことがどんどん好きになるんです。ダイヤモンドアスリートを担当するようになってから、陸上競技を見るのがすごく楽しくなりました。
青沼さん:担当した選手が日々頑張っている姿を見ているので、心から応援したくなりますよね。レース本番はこちらも緊張して見ていらないくらい、私もドキドキしています(笑)。これから世界に挑戦していくダイアモンドアスリートの皆さんをサポートしながら、その活躍を見守ることができることにやりがいを感じています。
松岡さん:選手の食や栄養への意識が変わったときが一番うれしいですね。最初は食事にまったく関心がなかった選手から「どんなものを食べたらいいですか」と質問をいただいたり、写真で送られてくる食事の内容に明らかな変化があったり。メディアのインタビューで食のことを語ってくれているのを見ると、この仕事をやっていてよかったと実感します。
ダイヤモンドアスリート×栄養士インタビュー!
食と栄養は、次世代を担うアスリートをどう支えている?
お話を伺ったのは…
栁田大輝選手
2003年、群馬県生まれ。小学生の頃から陸上を始める。高2から日本選手権100mの決勝に残り、3年時には東京五輪 4×100mリレーの補欠に選出される。2021年、高校2年時にダイヤモンドアスリート(第7期)に認定。高校卒業後、東洋大学に進学。今年開催されたパリ五輪では4×100m予選で2走を務める。
北田琉偉選手
2004年、大阪府生まれ。中学校から陸上競技を始め、1年時から走高跳を中心に取り組む。高校進学後に棒高跳を始め、5m00をクリアして注目を集める。高校卒業後、日本体育大に進学。今年5月に開催された関東インカレでは5m35の自己新で初優勝を飾った。
澤田結弥選手
2006年、静岡県生まれ。中学ではバスケットボール部に所属しながら中長距離や駅伝のレースに出場。高校進学を機に陸上競技に専念。高校2年時に出場したU20世界選手権、女子1500mでU20日本歴代2位、となる4分12秒87をマークし、6位入賞。2022年ダイヤモンドアスリートに認定(第9期)。今年、9月からアメリカ・ルイジアナ州立大に留学中。
―北田選手と青木さんにお伺いします。
北田選手が青木さんから受けたアドバイスで印象に残っていることは?
北田選手:今は寮に住んでいるので、昼食以外は食事を用意してもらっています。自分ではしっかりと食べているつもりだったのですが、食事の写真を送ったときに青木さんから食事の量がまだまだ足りないとコメントがあって、「え、これ以上食べないとあかんの!」と。それからは、補食もしっかりとるように意識して食事量を増やすようになりました。
青木さん:北田選手は身長が190㎝と大きく、さらに「これから筋肉をつけていきたい」という目標を聞いていたので、当時の食事量ではエネルギー摂取量が必要量を下回ってしまっていて、筋肉をつけるには足りていない状況でした。そこでまずはエネルギー摂取量を増やすためのアドバイスをさせていただきました。
―青木さんからサポートを受けるようになって競技の面で変化はありましたか?
北田選手:以前は試合の後半になるとバテてしまうことが多かったんです。自分の体力がないことが原因だと思っていたのですが、青木さんから試合中に補食をとるようアドバイスをもらってからは、試合の後半になってもバテなくなったんです。それどころか後半、さらに調子が上がるようになって今の好記録にもつながっていると思っています。
青木さん:棒高跳の試合時間は長くて、大会によっては3時間もかかることがあるんです。競技中に待ち時間もあるため、その間に補食を入れることで、体力の面だけではなく集中力の維持にも良い影響が出たのだと思います。次は目標の筋肉量の増加ですね。
北田選手:海外の選手と比べると自分はまだまだ細いので、記録を伸ばすためには筋肉をつけなくてはいけないと思っています。これからもアドバイスをお願いします!
―北田選手の今後の目標を教えてください。
北田選手:9月の初めにケガをしてしまって、今は満足に走れていない状態なんですけど、この期間にこれまでできていなかった体幹や筋肉をつけるトレーニングにしっかり取り組んで、来シーズンはさらにパワーアップした状態で飛べるようにしていきたいです。
―次に栁田選手と松岡さんにお伺いします。
栁田選手は約5年にわたり栄養サポートを受けているそうですね。これまでを振り返って松岡さんからのサポートで体調や競技の面で変わったことありますか。
栁田選手:最初の頃は何も考えずに、ジュースやお菓子なども食べたいとき、飲みたいときにとっていたので、好不調の波が激しかったんです。松岡さんからはそれを全部やめるのではなく、徐々に調整していこうとアドバイスをもらいました。それからは少しずつ調整してシーズン中はお菓子やジュースを控えるようになりました。
松岡さん:高校生のときはオフになると朝ご飯を抜いてお菓子ばかり食べていたこともありましたね。でもいつでも素直に「今日はお菓子を食べました」とすべて教えてくれるので、私も適切なアドバイスができました。高校2年生の頃と比べると今ではかなり体も大きくなりましたし、競技力も上がっています。今ではこちらからアドバイスしなくても、朝食もしっかりと食べて、シーズン中はお菓子を控えるなど、きちんと自己管理できています。
栁田選手:大学1年生のときにひどい夏バテを経験したことがきっかけで、食事の量やどんなものを食べたらいいのかを教えてもらいました。それから食べる量はできるだけ減らさない、必要な栄養素をしっかりとることを心がけるようになりました。栄養に関する知識をつけたことで、シーズンを通して好不調の波を少なくできていると思います。
松岡さん:私たちはアドバイスをするだけではなく、自分で食事や栄養を管理できるようになってもらうための役割も担っています。今何を食べるべきか、どれくらいの量を食べればいいかを判断して行動に移すことは難しい。栁田選手はそれがきちんとできているからこそ、世界を舞台に戦えるのだと思います。まさに一流のアスリートです。
―栁田選手の今後の目標を教えてください。
栁田選手:今年の夏のパリでは日本代表として4×100mリレーに出場しましたが、結果は納得いくものではありませんでした。来年、東京で世界陸上が開催されるので、100mと4×100mリレーの両方に出場して、多くの人に国立競技場に見に来てもらえるように、春からしっかりと結果を残していきたいです。
―最後に澤田選手と青沼さんにお伺いします。
澤田選手は青沼さんからサポートを受けるようになって競技や食事の面でどんな変化がありましたか。
澤田選手:以前は自分に合う食事量がわからず、普段の食事で栄養が足りているのか判断できずにいました。そんな時にプロである青沼さんに食事を見てもらって、褒めてもらい、それが自信につながりました。その上で量を増やしたり、フルーツや乳製品をとった方がいいというアドバイスをもらって、食生活をさらに改善することができたのですごく助かっています。
青沼さん:澤田さんがダイヤモンドアスリートに認定されたときはまだ高校2年生だったんですけど、すごく優等生で、料理の種類も豊富ですし、栄養のバランスも考えられた食事をしていたんです。ご家族のしっかりしたサポートが食事の様子から感じられました。ただ、中長距離は練習量が多いので、食事の全体量をもっと増やしてもいいのではないかというアドバイスをさせてもらいました。
澤田選手:高校に入った頃は、ランナーは痩せていないと走れないという考えが強かったんですけど、青沼さんのアドバイスやダイヤモンドアスリートのプログラムで他の選手の話を伺っていくなかでしっかり食べないと強くなれないというのを実感しました。
―8月からアメリカの大学に留学して新しい生活が始まったそうですが、食事の面で困っていることはありますか?
澤田選手:大学内に学生アスリート用のダイニングホールがあるんです。そこはバイキングでいろいろなメニューを自由に選んで食べられるようになっています。でも、私は日本食の方が好きなので、たまにアジアンスーパーに行ったりして日本のお米や納豆、味噌汁などを買って食べています。食材も日本とは違いますし、料理の腕もまだまだなので、こちらでも簡単においしく作れる日本食を教えてほしいです。
青沼さん:もちろんです。食生活をうまく整えていけるように、手に入る食材や調味料について聞かせていただいて、レシピを提案していきますね。
―澤田選手の今後の目標を教えてください。
澤田選手:一番大きな目標は2028年のロス大会に出場することです。そのためにもまずは2年更新できていない自己ベストを出すこと、そして日本選手権などで上位3位以内に入れるように日本のトップで戦えるような力をつけたいと思っています。
―最後に栄養士の皆さんの目標を教えてください。
青沼さん:栄養指導では、当たり前のように選手に食事写真を送ってもらっていますが、自分でもその苦労を体感するために、口にしたものをすべて写真に記録してアプリに保存。どれだけ栄養をとったのか計算する取り組みを始めました。体重も記録しているので、食事で体がどう変化するのかを自分自身で体感し、今後のダイヤモンドアスリートのサポートに役立てたいと思っています。
青木さん:まだまだ棒高跳という競技の知識が少ないので、競技への理解をさらに深めながら、北田選手の目標である筋肉をつけることを食事や栄養の面からしっかりとサポートしていきます。
松岡さん:高校生、大学生を対象としたダイヤモンドアスリートは体も心も大きく成長する時期です。アスリートとして最も大切なこの時期に、栄養について学び、自分で考えて食事をとれる一流のアスリートになってもらう。これが、エームサービスがダイヤモンドアスリートをサポートする目的です。そして、そこで終わるのではなく、将来ここを羽ばたいていったアスリートたちにも食事の大切さや楽しさを伝えていってほしい。それが私の願いです。
エームサービスが行う「栄養実践研修」とは?
ダイヤモンドアスリートに向けて展開される調理実習を含む栄養研修プログラム。「さまざまな食環境において食生活を自己管理できるようになること」を目的に、管理栄養士・公認スポーツ栄養士が中心となって開催しています。
今回ご登場いただいた選手が受けたプログラムは、「海外遠征前の心構えや準備事項・現地での留意事項」「自炊のきほん(栄養バランスの整え方、自分に必要な食事量)」についての講話と、メニューの考案から実際の調理までを行う実習の2部構成で実施されました。