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コト 2026.04.27

知識を“力”に変えるスポーツ栄養サポート ― ダイヤモンドアスリートの自律を目指して ―

トップアスリートにとって、トレーニングと同じくらい重要なのが「食」です。コンディションやパフォーマンス、そして競技人生そのものを左右すると言っても過言ではありません。一方で、食事について「知っている」ことと、「どんな環境でも実践できる」ことの間には、大きな隔たりがあります。

エームサービスは、日本陸上競技連盟(JAAF)が推進する強化育成制度「ダイヤモンドアスリート」において、長年にわたり栄養面からの専門的なサポートを行ってきました。今回ご紹介するのは、栄養セミナーでの学びを、海外合宿という“実践の場”へとつなげた一連の取り組みです。

目次

栄養の知識を「教える」から「使える」ものに
ダイヤモンドアスリート 栄養セミナー

2026年2月、ダイヤモンドアスリートおよびダイヤモンドアスリートNextageを対象に栄養セミナーを実施。このセミナーでは、「どんな環境でも自分に必要な食事を選び、整えられる力を身につける」ことを主眼に、エームサービスが長年取り組んできたスポーツ栄養支援の知見をもとに講義を行いました。

セミナーの狙いは、単に知識を“教える”のではなく、選手自身が状況に応じて判断し、行動できる「選ぶ力」「応用する力」を養うこと。そのために、セミナーの構成は、次の4つのテーマです。

  1. 食事の基本について
    • アスリートの食事の基本形(主食/主菜/副菜/乳製品/果物)を軸に、「何を」「どのくらい」食べればよいかという質と量の考え方を整理。どんな環境でも、この基本形を揃える視点を持つことを目指す
  2. 貧血について
    • パフォーマンスに直結する貧血の基礎知識、症状、原因、日常の予防策を解説。食事においては、食事量の確保や鉄の吸収を高める食品の組み合わせなど、即実践できる内容を共有
  3. 海外遠征について
    • 海外では日本と食環境が大きく異なるため、事前準備・衛生・食材選択・飲料水の扱いなど、現地でコンディションを保つために必要な“リスクと対処法”を学習
  4. 体調管理の基本について
    • 手洗い・衛生・飛行機移動・時差対策など、体調悪化を防ぐための実践ポイントを確認

これらの講義は、海外遠征や合宿が増えていく選手にとって、「環境や状況が変わっても、自分のコンディションを自分で整えるための基礎づくり」となる内容です。特に「アスリートの食事の基本形」を“考え方の軸”として強調し、食材が限られる海外環境下でも、必要な栄養を“自力で揃える”視点を持てるようになることを目指しました。

学びを「実践」につなぐ
アメリカ・フェニックス海外合宿帯同

2月の栄養セミナーで学んだ内容を、実際の生活・トレーニング環境の中で試す場として位置づけたのが、2026年3月に実施されたアメリカ・フェニックスでの海外合宿です。この合宿には、エームサービス 公認スポーツ栄養士の青木 管理栄養士が帯同しました。

この合宿で重視したのは、海外という慣れない環境においても、選手自身が「何を食べるか」「どう整えるか」を判断し、行動できるようになること。知識を“理解した状態”から、実際に使える力へと定着させることを目標としました。

用意される食事から、自分で整える食事へ

合宿中の栄養サポートは、完成された食事を提供するスタイルではありません。ホテルの朝食ビュッフェ、スーパーマーケットでの買い物、キッチン付き宿泊施設での自炊といった、現地の環境そのものを教材として活用しました。

具体的には

  • 朝食ビュッフェでは、自分の必要量と「アスリートの食事の基本形」を意識しながら料理を選択
  • スーパーマーケットでは、栄養成分表示や食品の特徴を確認しながら食材を購入
  • 夕食は、選手自身が献立を立てて調理を実施

その過程で、調理時の衛生管理、食材の保存方法、食中毒リスクへの配慮など、海外環境ならではの注意点についても随時確認を行いました。

トレーニングと連動したコンディショニング

トレーニングが長時間に及ぶ日には、事前に補食の内容や摂取タイミングを選手とともに計画しました。エネルギー補給を目的とした食品や飲料を活用しながら、「なぜこのタイミングで必要なのか」を理解したうえで選択することを重視しています。

また、屋外の気温が高い環境下において、持っていける食品やその保管方法といった実践的なポイントについても共有しました。

行動の変化が示す、学びの定着

合宿の序盤は食事の準備に苦労する場面もありましたが、日を追うごとに、不足しがちな栄養を補える食品を自ら購入したり、献立を工夫するなど、行動面での変化が見られるようになりました。セミナーで学んだことを、今回の海外合宿という実践の場で試し、活かすことができた点に大きな意味がありました。

それぞれの立場から3名の担当者が語るダイヤモンドアスリート支援

ダイヤモンドアスリート支援を「設計する」視点
松岡 未希子(公認スポーツ栄養士/管理栄養士)

ダイヤモンドアスリートの栄養サポートは、チーム単位ではなく、選手一人ひとりに向き合う個別支援が基本です。それぞれが異なる生活環境や課題を抱えているため、「今の食事が目標に合っているか」を丁寧に確認しながら、無理のない行動目標を設定し、少しずつ積み重ねていきます。今回の栄養セミナーと海外合宿は、その延長線上にある取り組みです。知識を知識のまま終わらせるのではなく、実際の環境で試し、振り返り、次につなげる。その循環をつくることが、育成段階のアスリートには欠かせないと考えています。選手の食や栄養に対する意識が変化していく瞬間に立ち会えることは、この仕事ならではのやりがいだと感じています。

海外という現場で「選べる力」をサポートする
青木 萌(公認スポーツ栄養士/管理栄養士)

海外では、日本と同じように食事を整えることが難しい場面も多くあります。だからこそ、「正解の食事を用意する」よりも、「今ある環境の中で、どう整えるか」を一緒に考えることを意識しました。スーパーでの買い物や調理、補食の準備などを通して、楽しかったこと、上手くいかなかったこと、全てが大事な経験になったのではないかと思っています。環境が変わっても、自分で判断し、選び続けられること。それが、海外を含む競技人生を支える力になると感じています。

基礎を「自分の判断」に変えるセミナー設計
青沼 小百合(管理栄養士)

栄養セミナーでは、特定のメニューや数値を覚えることよりも、「なぜそれが必要なのか」を理解してもらうことを大切にしています。理由がわかれば、食環境が変わっても応用が利くからです。ダイヤモンドアスリートは、今後、国内外のさまざまな環境で競技に取り組むことになります。その中で、「これは食べられるか」「今の自分に必要な量はどれくらいか」といった判断を自分でできることが、コンディション管理の土台になります。今回のセミナーが、海外合宿はもちろん、これから続く競技生活の中で“立ち返る軸”として役立ってくれればうれしいです。

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