社会に求められる科学 -研究と社会実装-
エームサービスは「栄養学にエール」を送ります。
今回は、兵庫県立大学の大学院に籍を置くIDSセンターの奥薗さんに、当社の事業をフィールドとする実践的研究に取り組む経緯と挑戦し続ける思い、大学院での学びや産学連携に関心のある後輩の皆さんへのアドバイスを伺いました。
お話を聞いたのはこの人:
IDSセンター* フェロー
管理栄養士 奥薗 美代子さん
* Innovative Dining Solutions センター(研究開発部門)
病院などでの勤務後、1997年に入社
HSS(ヘルスケアサポートサービス)部門の医療・福祉施設で給食管理、運営に携わり、病院や福祉施設の事業所のマネジャー(責任者)や栄養士リーダー等を経験。現在は、本社IDSセンターのスタッフとして、各種プロジェクトや運営支援業務に従事。2022年4月から兵庫県立大学大学院環境人間学研究科博士前期課程(栄養教育・栄養生理学研究室)で「時間栄養学」の実践的研究を実施。2024年4月から博士後期課程に進学。
会社員と兵庫県立大学大学院の博士後期課程の大学院生という「二足のわらじ」を実現中。現在の業務内容と大学院での活動について教えてください。
業務については、IDSセンターとしての運営支援に関するミッションが中心となっています。例えば、HSSの「オペレーショナル エクセレンス タスクフォース 病院給食の合理化・効率化」のリーダーや、医療関連サービスマークの更新、指導助言者業務の確立にむけた対応などを行っています。また、社外活動になりますが、兵庫県栄養士会の理事(勤労者支援職域)に就任しており、そちらで得た栄養士・管理栄養士に関連する情報は社内に展開をしています。
大学院については、引き続き、兵庫県立大学大学院の博士後期課程で永井成美教授のご指導のもと、「時間栄養学」の実践的研究を進めています。前期課程では、単位の取得や課題の提出で忙しいこともありましたが、後期課程では、更なる研究を論文にまとめることに時間をかけており、現在4本目の論文に取り掛かっているところです。
当社の業務では、飲食の提供など栄養学の「実践」が主になりますが、「研究」に関心を持つようになった経緯は?
医療・福祉施設向けのヘルスケアサポートサービスの部門に所属していたこともあり、現場でも、患者様に提供する食事内容や発言の一つひとつにもエビデンスが必要だということは常に認識していました。なので、必要な勉強や情報収集は積極的に行っていた方だと思います。大学病院での栄養士リーダーや受託責任者になり、大型急性期病院で実施されていたNST(Nutrition Support Team)の研修にも参加させてもらいました。初めて学会に足を運んだのもこの頃です。
それからは、2008年にニュートリションスーパーバイザー*になり、自身の業務に関連する学会に参加したりし、それらで得た情報などは部門内で共有するようなりました。クライアント様の管理栄養士は、栄養学に関連する研修や学会に出られる機会も多いので、コミュニケーションにも役立ちました。ただその頃は、現在のように博士課程にまで進むとは思ってもいませんでしたが(笑)。
*ニュートリションスーパーバイザー=栄養スーパーバイザー職
大学院への入学を考えることになったきっかけは?
現在、在籍している兵庫県立大学の永井成美教授のご指導を受けることになったのは、2018年に日本時間栄養学研究会に参加し、その後、上司と一緒にご挨拶に伺ったところからです。その時に永井先生が「シフトワーカーを対象にした時間栄養学」について研究をされていると伺い、当社の事業フィールドでの実証実験についてご提案し、産学連携の共同研究の実施へとつながっていきました。
その後、学部生や院生の皆さんと一緒に月に1回「時間栄養学」の勉強会に参加をさせていただくようになり、いろいろな形で学ぶ機会があることを知り、大学院で学んでみたいという思いがわいてきました。
勉強会での取り組みを発展させたいと考え、2022年に兵庫県立大学大学院に社会人枠で入学をしました。また、その頃から、会社としてのサポート体制も整えられつつあったため、業務とのバランスをとりながら大学院に通うことなりました。
業務と大学院での研究を両立させる上での苦労は?また、工夫していることがあれば教えてください。
会社からは大学院での研究をメインの業務としてとらえてもらえており、その他の業務として運営支援のミッションをこなしていますが、頭の切り替えは大変です。また、入学してからは論文を書くのも初めてだったので、最初はとても時間がかかりました。前期課程では単位の取得や課題の提出、発表などもあるので、専任業務を持っていたら、両立は難しかったのではないかと思っています。
今年から博士後期課程に入り、論文の作成に集中できる環境ですが、その分スケジュール管理をしっかり行っています。同じ研究室の大学院生のメンバーは現在6名で、そのうち5名が社会人で、仕事をはじめ、異なる環境下で研究を行っています。会社のサポートもあり、先生方にも大変熱心にご指導をいただいているので、博士号取得を目指しています。
栄養学の研究に携わること、その成果を社会実装していくことの意義は?
今後、当社がクライアント様の健康経営や健康づくりをサポートしていく上で、研究で得られた成果(エビデンス)に基づくことは安心感や説得力につながると思っています。当社の事業フィールドでは、一つの事業所で行った研究について、同様な事業所でも水平展開を実証していくことで、徐々に社会にも広がっていきます。
指導教授である永井先生の講演などで、これまでの成果に触れていただく機会もあり、そのためには、研究としてきちんと成立していることが大切だと感じています。学会での発表に留まらず、論文にしていくことで、研究の成果を社会に戻す、実装するという意義が果たせます。
社会への広がりを感じられることも研究の面白さだと思います。
大学院での学び、大学・研究機関との取り組みに関心がある後輩の皆さんにアドバイスをお願いします。
大学院での研究は、苦しいことももちろんありますが、達成感があり、とても楽しいと感じています。また、アカデミアのさまざまな分野の先生方や学生の皆さんとの出会いは、異なる視点や物の考え方に触れることができ大変勉強になります。この貴重な経験を、後に続く皆さんにしっかりとつなげていきたいと思っています。
まずは、少なくとも3~5年は事業のフィールドでの実務をがんばってほしいですね。業務の中から課題を見つけ出し、解決方法を考える時に研究にできるかどうか、常に考えをめぐらすことで、実際に大学院に進学したり、産学連携の取り組みを行ったりする際に、より事業や社会のニーズに即したテーマにたどり着けるのではないでしょうか。
関連リンク
- 三井物産株式会社「陽だまり」のインタビューコラム
https://www.mitsui.com/wellness/954/ - ニュース:「第70回 日本栄養改善学会学術総会」で当社管理栄養士が登壇しました
https://www.aimservices.co.jp/news/2023/09/21/6878/ - ニュース:「栄養学雑誌」への論文掲載について
https://www.aimservices.co.jp/news/2022/06/13/220/